アフリカ世界遺産 - マリ
ジェンネ旧市街
「ジェンネ旧市街」はマリ共和国の首都バマコの北東に位置する世界遺産です。ジェンネとは「水の精霊」という意味で、川の上の島に造られた都市です。古くから続くその独特な建築スタイルが評価され、1988年に街並み全体がユネスコの世界遺産に登録されました。

「ジェンネ旧市街」には紀元前から人が居住していたと言われています。この都市は、サハラ砂漠を挟んで地中海と西アフリカを結ぶ「サハラ交易」の要衝であり、遊牧民と定住民の交易拠点として栄えました。その重要性から近隣の強国の支配を次々と被ることになりますが、都市自体の重要性や役割に大きな変化はなく、現在に至るまでこの地方の中心的な交易都市として機能し続けています。
「ジェンネ旧市街」の伝統的なスタイルの建築物は、そのほとんどが土(泥)で造られています。土造の建造物自体は世界的に見ればけっして珍しいものではありませんが、「ジェンネ旧市街」のものほど特徴的で、かつ現在までよく伝統が受け継がれているものは、世界でも他に例を見ないと言っても過言ではありません。
土造の建物はそもそも原理的に長い年月の経過に耐えられるものではありません。建材としてはもっとも脆い部類に属します。風雨やひび割れなどによる損傷を絶えず修復し続ける必要があり、一度でも人の手を離れるとあっという間に崩れて土に還ってしまいます。土造の民家などが立ち並ぶ街並みを現在でも保っている「ジェンネ旧市街」は非常に重要な文化財なのです。
「ジェンネ旧市街」の中でもっとも有名でシンボルとも言える建築物が“ジェンネの大モスク”です。もともとこの場所には13世紀にモスクが建てられたのですが一度破壊されており、現在見られるのは1906年に再建されたものです。もちろんこのモスクも土(泥)で造られており、そのため別名“泥のモスク”と呼ばれています。
他の土造建築物にも言えることですが、硬い材質で均整に造られた建物に見慣れている私達からすると、微妙な歪みや滑らかな角を持つこれらの建物は、一度見たら忘れられないほどに奇妙な印象を与えます。それはあたかも、子どもが砂遊びでつくったお城を人が住める大きさまで巨大化させたもののようにすら思えてきます。
マリ共和国が世界に誇る泥でできた都市「ジェンネ旧市街」。その不思議な街並みは一度は見ておきたい景観の一つと言えます。なお、この世界遺産はユネスコの中で「100年後には見られない可能性が最も高い世界遺産」にも選定されており、このことからもどれほど貴重な文化財であるかがよくわかります。