ハンガリー世界遺産
トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観
ハンガリーの北東部、スロバキアとウクライナ国境にほど近いティサ川とボドログ川流域に広がるトカイ地方にワイン産地としては珍しく世界遺産に登録された場所があります。 代々伝統を受け継いできた『トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観』です。

2002年に世界遺産に登録された『トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観』は、28もの有名な村々と7000haという広大なブドウ畑でできています。今日ではそのうち5000haの畑でブドウ作りが行われ続けています。
この『トカイのワイン』で有名なのが≪貴腐ワイン≫というデザートワインです。
もともとワイン作りが行われていたこの地方では、何度も侵略を繰り返されてきました。そして1650年頃、オスマン帝国により侵略された際にブドウの収穫が遅れて偶然出来た品種だといわれています。それは、この地方が流れる二つの川に挟まれている為に秋から冬にかけて濃霧が発生し、この霧が≪貴腐ワイン≫が出来る為に必要な特殊なカビ・ハイイロカビを繁殖させるのです。
それに加えて、土壌はブドウを栽培するのに適した火山性の粘土質土壌と黄土でできています。また、気候も微気候と言われるカビの増殖に適した気候でもあり、まさにワイン製造に適した地方であるといえます。
≪貴腐ワイン≫とは、白ワイン用品種のブドウがこのカビの感染で糖度が高まり、芳香も豊かになったワインです。この美味しさは、世界中の貴腐ワインの中で頂点だとも言われており、かのフランス国王ルイ14世も「王者のワインにしてワインの王者」と称えたほどです。ハンガリーやフランスで呼ばれている名前の由来も「高貴なる腐敗」を意味しています。
歴史の中でも、歴代のロシア皇帝がトカイの貴腐ワインを宮廷内で独占する為にトカイを植民地としたことは、貴腐ワインの重要さを知る事が出来る歴史のひとつでもあります。
『トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観』は、その二つの川から約標高250mの丘陵地に段々にあるブドウ園とワイン生産を行う集落、またワイン製造の為に固い岩盤をくり抜き巨大な地下貯蔵施設(ワインセラー)までもが世界遺産に指定されています。
『トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観』はまさに、いろんな国が入り乱れた事により得た知恵と、もともとブドウ作りに適した環境、偶然的特殊なカビの発生と効果を得たことにより、長い歴史の上で完成させたワインでもあります。
もしこのトカイ地方へ赴く事があれば、ただワインを食すのではなく、歴史の流れを感じる事により、より深い味わいになる事間違いないはずですよ。