イタリア世界遺産
クレスピ・ダッダ
ミラノから東に約30km、イタリア共和国ロンバルディア州ベルガモ県カプリアーテ・サン・ジェルヴァージオというコムーネにクレスピ・ダッダという町があります。

19世紀の終わりに綿織物企業の経営者であるクリストフォロ・ベニーニョ・クレスピが、彼の企業下の工場で働く労働者のための理想郷として作り上げました。
クリストフォロ・ベニーニョ・クレスピが目指したのは、企業家と労働者が共に生活し、必要なものはすべて居住区内で手に入れる事のできる完璧な工業都市です。
労働者が働きやすい環境を整えることは、労働者のやる気を喚起し生産力が向上、福祉環境を整えることは可処分所得の向上につながり、労働者が消費者にもなると考えたのです。
クレスピ・ダッダは50年間、労働争議も社会的混乱もない資本主義社会の理想郷と言われました。
イタリアの世界遺産クレスピ・ダッダは、アッダ川とブレンブロ川の二つの川が合流する三角州の先端にあります。
一か所だけしかない町の出入口からは一直線の道が伸びていて、南端の墓地が最終地点です。
墓地の入口の大きな鉄の扉から入ると、中央には大きな道が通っています。
その道の先にはガエターノ・モレッティが建設した三角形の塔があり、クリストフォロ・ベニーニョ・クレスピとその家族や労働者たちが眠っています。
イタリアの町の中央の道の西側が工場地区、東側が居住地区と明確に分かれています。
居住区には3歳から通える学校、誰でも診察してもらえる病院、休日のための劇場などがあり、労働者はこれらを無料で利用できました。
またクレスピ家の故郷ブスト・アルシツィオの教会をコピーした教会もあり、ドームには美しい幾何学模様が施され、内壁には聖書の一場面が鮮やかな色彩のフレスコ画で描かれています。
また労働者のために家庭菜園付き戸建住宅が用意されました。
毎年行われるガーデニングコンテストのため、競って庭を手入れしていたそうです。
クレスピ・ダッダの優雅な外観の工場は、ロンバルディア・ネオゴシック様式と呼ばれています。
室内作業に不慣れな農民出の労働者のために、たくさんの光が工場内に入るように設計され、換気や湿度にも気を配られています。
工場はつい最近までジーンズを生産していたそうです。
イタリアのクレスピ・ダッダは世界遺産の中でも珍しい産業遺産です。
世界遺産と産業がなかなか結びつきにくいですが、この時が止まったような静かな町を歩いていると自然とこの二つが結びつき、世界遺産であるという事が納得できるでしょう。